パフォーマンスマネジメントは、組織の生産性を向上させるための鍵となる手法です。「でも、具体的にはどう進めればいいのだろう?」と疑問を持つ担当者も少なくないでしょう。「目標管理制度との違いは?」という質問もよく耳にします。
本記事では、パフォーマンスマネジメントの基本から、その手法や期待される効果、さらには具体的な進め方について詳しく解説します。この情報を元に、より効果的なパフォーマンスマネジメントの実践を目指しましょう。
パフォーマンスマネジメントは、社員の能力とモチベーションを引き出すマネジメント手法です。1970年代にアメリカのコンサルタント、オーブリー・C・ダニエルズ氏によって、行動と結果を結び付ける人材マネジメント手法として提唱されました。
パフォーマンスマネジメントでは、マネージャーとメンバーが目標達成を目指してコミュニケーションをとり、メンバーが主体的に考え行動できるようマネージャーがサポートを行うことを基本としています。また、目標設定をマネージャーとメンバーが共同で行い、短期間でのフィードバックが実施されるのも特徴です。フィードバックでは、メンバーの気づきを促すような問いかけが重視され、目標達成のプロセスや未来の行動、そして社員の強みや個性が中心に置かれます。
パフォーマンスマネジメントと似た手法に、「目標管理制度(MBO)」が存在します。MBOは、社員が自ら目標を設定し、その達成度合いで評価を行う概念です。パフォーマンスマネジメントとMBOは、ともに「目標を設定・管理し、それを実行し、振り返る」という流れが共通しています。しかし、フィードバックの頻度などに違いが見られます。
パフォーマンスマネジメントとコーチングは、一見似ているように感じられるかもしれませんが、両者には明確な違いがあります。簡潔に言えば、コーチングは「答えを創り出すコミュニケーション技術」であり、パフォーマンスマネジメントは「社員の能力を最大限に引き出す施策」であると言えます。
コーチングは、基本的に「答えはその人の中にある」という原則に立脚しており、その人自身の納得感を基に「答えを創り出す」サポートを行うコミュニケーション技術です。
対照的に、パフォーマンスマネジメントは、従業員の能力や成果を管理・向上させるための一連の施策を指します。これには、目標設定、評価、フィードバックなどが含まれます。コーチング技術は、このプロセスの中で特にフィードバックや従業員の自己認識を高める段階で用いられることが多いです。
パフォーマンスマネジメントは、VUCAの時代で、組織の対応力を強化するための手法として注目されています。変化が激しく予測が難しいVUCAの時代においては、従来のマネジメント手法では、変化への適応が難しくなっています。
この背景から、一人ひとりの社員が主体的に行動し、迅速な意思決定やアクションをとることが求められるようになってきました。その実現のためにパフォーマンスマネジメントの実施が広がっているのです。
近年の流れとしては、従来の上からの一方的な指示や評価よりも、双方向のコミュニケーションや社員の個性を重視したアプローチが増えてきました。パフォーマンスマネジメントもその姿勢を持ち合わせています。各手法について見ていきましょう。
パフォーマンスマネジメントでは、目標設定の際、マネージャーが一方的に目標を決めるのではなく、メンバーとの対話を通じて共同で目標を設定します。これにより、メンバーのモチベーション向上や目標へのコミットメントが促されます。
フィードバックのサイクルを短くする点も、パフォーマンスマネジメントの特徴です。1週間から1カ月ごとの頻繁な対話を通じて、リアルタイムのフィードバックを提供することで、目標の修正や調整がスムーズに行えるようになります。
パフォーマンスマネジメントにおいては、メンバーの自発的な気づきを促すスタイルのマネジメントが求められます。マネージャーが解答や指示を出すのではなく、メンバー自身が「何が問題なのか」や「どう改善すべきか」といった点に気づくような質問をすることで、メンバーの自律性や問題解決能力が高まります。
目標の達成プロセスに焦点を当てることで、未来志向の行動計画を立てることがパフォーマンスマネジメントでは強調されます。つまり、過去の行動や結果に囚われず、これからの取り組みや行動に焦点を当てることで、目標達成に向けた具体的なステップを計画します。
パフォーマンスマネジメントでは、各社員の強みや個性を重視することも特徴です。メンバーが自らの強みを十分に認識していない場合、マネージャーがそれを指摘し、活かすような指導を行うことで、メンバーのポテンシャルを最大限に引き出します。
パフォーマンスマネジメントの実践は「成功の循環」の形成を促進します。この「成功の循環」とは、マサチューセッツ工科大学の組織学習センター共同創始者、ダニエル・キム氏によって提唱された、良質な組織作りのフレームワークです。具体的には以下の4つの要素からなり、それぞれが循環的に関連しています。
パフォーマンスマネジメントは、以下の手順で進めていくと効果的に実施しやすくなります。
それぞれの詳細について解説します。
パフォーマンスマネジメントでは、以下のプロセスで目標を設定していきます。
まず最初に情報の共有をしましょう。メンバーとマネージャーやリーダーが会議を開き、現在の業務状況やチームの目標、組織のビジョンなどを共有します。これは、メンバーが大局的な視点で目標を理解するのに役立ちます。
続いて、メンバーからの意見や提案を収集しましょう。例えば、「これまでの業務の中でどのような課題があったか」「自分はどのようなスキルを活かして貢献できるか」などの意見や提案を部下から求めます。その後、マネージャーやリーダーはメンバーの意見を参考にしつつ、具体的な目標を提案しましょう。対話を通じて、双方が納得する形で最終的な目標を設定することが大切です。
このプロセスを通じて、メンバーは自分の意見や提案が尊重されることを実感でき、自主性が高まります。また、メンバー自身が目標の設定に関与することで、その目標に対するコミットメントも強くなるでしょう。
続くステップは、パフォーマンスの観察です。目標達成に向かう行動をどのようにしているのか、定期的なコミュニケーションを介して観察・理解することが求められます。
その際には、目標と実際の行動との間にギャップが生まれていないかに注意しましょう。パフォーマンスマネジメントにおいては、対話の中で目標と行動に乖離が発生していることが発覚した場合には、解決策の指示はしません。メンバーが自らの課題を認識し、どのようにアプローチすべきかを、自分で考えるような問いかけを通じてサポートすることが重要です。
最後のステップは、メンバーの行動に対するフィードバックの提供です。フィードバックでは、行動やパフォーマンスを評価し、その結果を伝えます。主観を極力排除し、客観的なデータを基に評価・意見を伝えることが大切です。このようなアプローチを採用することで、、メンバーは次の行動やタスクにおいて、より意欲的に取り組めるようになります。
パフォーマンスマネジメントを実施していくに際して、データ共有に問題があることで部署間の目標にズレが生じてしまうことが少なくありません。
パフォーマンスマネジメントを行なっていく上でも、全社的に統一した目標を掲げて追っていくことが大切です。しかし、各部署で個人の目標を設定していくうちに、部署の目標と経営目標との間にズレが生じてくることがあります。社内での目標設定のズレは、企業を誤った方向性に導くリスクがあるでしょう。
こうした問題が生じる原因には、日々の情報共有が不足していることが挙げられます。例えば、各部署の数値進捗をExcelで管理している場合には、それを全社的に共有するには多大な手間と時間がかかります。結果、部署間における日々の進捗共有がスムーズに行えていないといった問題が生じやすくなります。
企業がこれらの課題を解消するには、情報共有の仕組みやプロセスを見直し、各部署間の情報共有を強化することが有効です。
パフォーマンスマネジメントは、組織内での生産性や業績を向上させるための手法として注目されています。メンバーとの対話を通じて目標を共同で設定する、短い期間でのフィードバックをする、強みや個性を重視するなどの手法で、組織全体のパフォーマンスを高めていきましょう。