2023-10-06
Loglass編集部
約10分
Study

シナリオプランニングとは?定義や目的、4ステップの進め方から3つの事例まで

現代のビジネス環境や地域社会の課題は、これまでにないスピードで変化しており、未来を予測することは一層難しくなっています。

不確実な未来にどのように備え、戦略を策定していくのか。その答えの一つがシナリオプランニングです。

この記事では、シナリオプランニングの基本的な概念から、成功するためのポイント、そして実際の事例を通じてその有効性を解説します。

シナリオプランニングを理解し、活用することで、未来の変化に柔軟に対応する準備を進める手助けとなることを願っています。

1.シナリオプランニングとは?

まずはシナリオプランニングの定義や目的から確認していきましょう。

(1)シナリオプランニングの定義

シナリオプランニングとは、未来を予測し、そこから最善の行動を選択するための戦略立案手法の一つです。具体的には、複数の未来シナリオを作成し、それぞれの状況に対してどのように対応すべきかを考えます。

この手法の鍵となるのは、「確定的な未来予測」ではなく、「複数の可能性」を考えることです。そのため、思いがけない状況の発生にも素早く対応できるようになります。

例えば、以下の表のように4つのシナリオを設定し、それぞれに対応する戦略を考えるという形になります。

シナリオ 原因・要因 影響 対応戦略 成功の指標
市場拡大 新技術の普及、経済成長 売上増加、競合増加 投資拡大 売上増加率
市場縮小 経済危機、新規競合の登場 売上減少、利益率の低下 コスト削減 コスト削減率
新規参入 市場の魅力、技術の進化 競合増加、市場シェアの変動 新商品開発 新商品の市場占有率
製品寿命終了 技術の陳腐化、顧客ニーズの変化 売上の停滞または減少 新市場探索 新市場への参入成功率

これらのシナリオと戦略は、常に見直しを行い、現実の変化に合わせて修正していきます。

(2)シナリオプランニングの目的

シナリオプランニングの目的は、主に2つあります。

一つ目は、将来の変動に強い組織を作ることです。ビジネス環境は絶えず変化します。技術革新、政治的な変動、経済の動向など、これらの変化に対応できる組織作りが求められます。シナリオプランニングを活用することで、さまざまな未来のシナリオを想定し、それぞれに対応した戦略を準備することが可能となります。

二つ目は、新たなビジネスチャンスをつかむことです。一見、不確実性やリスクが高いかもしれない未来のシナリオから、新たな価値創造やビジネスチャンスを見つけ出すことが目指されます。

シナリオプランニングの目的 概要
将来の変動に強い組織作り 様々な未来のシナリオを想定し、それぞれに対応した戦略を準備する
新たなビジネスチャンスの発見 不確実性やリスクが高い未来のシナリオから、新たな価値創造やビジネスチャンスを見出す

このように、シナリオプランニングは、組織の持続的な成長と競争力強化を支援する重要なツールとなります。

2.シナリオプランニングの基本的な進め方4ステップ

シナリオプランニングは目的や環境に合わせて作成するため、進め方に決まりはありません。

ここでは、一例として大まかな手順を4ステップでご紹介させてください。

  1. 環境分析:現状の認識
  2. 将来像の描画:可能性の探求
  3. 戦略の考案:対策の立案
  4. アクションプランの制定:実行計画の策定

それぞれの詳細を掘り下げます。

(1)環境分析:現状の認識

シナリオプランニングを行うにあたって最初に行うのが「環境分析:現状の認識」です。これは、現在のビジネス環境や競争状況を理解し、起こりうる変化を把握するための重要なステップです。

具体的には以下のような要素を考察します。

  • 市場の動向:市場規模、成長率、競争状況など
  • 技術の変化:新技術の影響、技術革新の可能性など
  • 社会環境の変化:人口動態、消費者ニーズの変化など
  • 法律・規制の動向:新たな法律・規制の影響、変更の可能性など

これらの要素を踏まえて、ビジネスの現状と将来に対する影響を分析します。その上で、どのようなシナリオがあり得るのかを想定し、次のステップへと進むのです。

(2)将来像の描画:可能性の探求

将来像の描画とは、現状分析から得られた情報を基に、様々な未来の可能性を洗い出し、ビジョンを形成するプロセスです。ここでは、あくまで可能性を追求するステップなので、乱暴に言えば「空想」に近い状態で臆せずアイデアを出しましょう。

【具体的な手法】

  1. トレンド分析:社会的、経済的、技術的なトレンドを分析し、それが自社にどのように影響を及ぼすかを考えます。
  2. ブレインストーミング:さまざまな視点から自由な発想で未来のシナリオを創り出します。
  3. SWOT分析:自社の強み、弱み、機会、脅威を明確にし、これらを基に未来のシナリオを考えます。

このように将来像を描くための手法は多岐にわたりますが、重要なのは様々な視点から可能性を模索し、現状に縛られず広い視野で考えることです。

(3)戦略の考案:対策の立案

戦略の考案では、様々な将来像に対応する対策を立案します。これは、シナリオごとの最適な行動計画を明確にするためのステップですまずは、それぞれのシナリオが現実となった場合にどのような影響がるかを洗い出します。例えば、市場環境の変化、競合他社の動向、技術の進化などが考えられます。

次に、それらの影響に対応するための具体的な戦略を考えます。どのようなアクションを取れば良いかを詳細にまとめることが求められます。

以下に、その一例を表にまとめました。

シナリオ 影響 対策
市場環境の変化 売上減少 新たな販路の開拓
競合他社の動向 市場シェアの低下 ユニークな製品開発
技術の進化 業務効率化 技術導入によるコスト削減

このようにシナリオごとに影響と対策を明確にすることで、将来への備えが具体的になります。戦略の考案は、シナリオプランニングの中でも特に重要なフェーズであると言えるでしょう。

(4)アクションプランの制定:実行計画の策定

シナリオプランニングでは、最終的に具体的な行動計画、つまりアクションプランを作成します。これは、考えられた各シナリオが現実化した際に、組織がどのように動くべきかを明確にするためのものです。

具体的には次のようなステップで進めます。

  1. 各シナリオごとに必要な行動をリストアップします。
  2. リストアップした行動の優先順位を付け、時系列にまとめます。
  3. 各行動に必要なリソース(人、時間、お金など)を試算します。
  4. 行動の担当者を決定し、各々に明確な役割を割り当てます。

このアクションプランの制定により、未来予測から具体的な戦略までが一貫した形になり、組織全体での対応がスムーズになります。

3.成功するシナリオプランニングの秘訣

ここでは、シナリオプランニングを成功させる秘訣をご紹介します。

具体的には、以下の3つです。

  1. 多角的な視点で考える
  2. 自社だけでなく、業界全体を視野に入れる
  3. 定期的に見直しを行う

それぞれ、チェックしていきましょう。

(1)多角的な視点で考える

成功するシナリオプランニングの一つの秘訣は、多角的な視点で考えることです。一つの視点だけでなく、さまざまな角度から将来を想定し、ストーリーを描くことで予見できなかったリスクやチャンスを発見することが可能となります。

具体的には、以下の3つの観点からシナリオを作ることを推奨します。

  1. 市場観点:競合他社の動向、顧客ニーズの変化、新たな市場の出現など
  2. 技術観点:新しい技術の開発、既存技術の進化や廃止など
  3. 社会観点:社会情勢、法規制の更新、環境問題の影響など

これらをバランスよく考慮することで、より現実に即した、そして予測可能性の高いシナリオが作成できます。

(2)自社だけでなく、業界全体を視野に入れる

成功するシナリオプランニングには、自社の動向だけでなく、業界全体の流れを視野に入れることが重要です。業界の動向、競合他社の戦略、さらには社会的な変化も含めて考察することで、より広範でリアルなシナリオを描くことが可能となります。

たとえば、以下のような視点を持つことが求められます。

  1. 自社の位置付け:業界内での自社の立ち位置や強み、弱みを把握
  2. 競合分析:競合他社の戦略や製品開発、マーケティング動向を分析
  3. 市場トレンド:業界の市場規模や成長率、顧客ニーズの変化を網羅

これらの視点を持つことにより、自社だけでなく業界全体を考慮に入れた戦略が構築でき、未来予測の精度が高まります。

(3)定期的に見直しを行う

成功するシナリオプランニングのためには、定期的に見直しを行うことが不可欠です。経済状況や市場の動向、技術の進歩など、外部環境は常に変化しているため、過去に作成したシナリオが現在や未来を正確に予測しているとは限りまん。

具体的には、シナリオプランニングを定期的に見直すためのステップは以下のようになります:

1.現状の分析:市場状況のモニタリングを行い、重要な変化をキャッチします。

2.予測の更新:新たに得られた情報をもとに、シナリオを更新します。

3.戦略の再評価:更新されたシナリオをもとに、現行の戦略を評価し直します。

4.アクションプランの修正:必要に応じて、アクションプランを修正します。

これにより、企業は未来に対応した適切な戦略を設定し、競争力を保つことができます。

4.シナリオプランニングの具体的な事例とその効果

シナリオプランニング取り入れた事例を3つご紹介します。

  1. 事例1:低炭素社会戦略センター(LCS)による未来の探求
  2. 事例2:別府市の温泉とエネルギーの未来を考える
  3. 事例3:農村地など少人数の住民だけでの実施

いずれも、国内で実施されたものです。

シナリオプランニングに取り組む際の先行事例としてお役立てください。

(1)事例1:低炭素社会戦略センター(LCS)による未来の探求

2015年末に採択されたパリ協定の発効に伴い、気候変動の影響が顕在化している今日、社会・経済への大きな影響が到来しています。そんな「先の見えない」時代において、未来を予測することが困難である一方、従来のバックキャスティングの方法も適切ではありません。この課題に取り組むため、低炭素社会戦略センター(LCS)は2016年にシナリオプランニングを実施しました。

結果、通常の方法では考えられない二つのシナリオ分岐が得られました。一つは、「バーチャルユートピア」シナリオで、高度な技術が活用され、循環社会が実現する未来が描かれています。もう一つは、「ローカルフロンティア」シナリオで、手作りやスローライフが評価され、地域社会が強化される未来が展望されています。定量分析の結果、低炭素化は両シナリオにおいて実現可能であることが示され、今後はより深いシナリオ構築と市民や行政・企業を含めたブレーンストーミングとして、シナリオプランニングの実施の検討が進められる予定です。

この事例は未来の不確実性に立ち向かい、新しい視点から問題解決を目指すシナリオプランニングの重要性を強調しています。

>>参考:低炭素社会の実現に向けた技術および経済・社会の定量的シナリオ

(2)事例2:別府市の温泉とエネルギーの未来を考える

別府市では、水とエネルギーのつながりに関する地域の問題を中心に、さまざまな関係者や専門家と協力して未来の計画を立てました。

アンケート調査を通じて、別府温泉の魅力や地域のエネルギーに関する課題と解決策を明らかにしました。これをもとに、3つの未来のシナリオが構築され、関係者の間での意見共有や議論が行われました。

専門家たちだけでなく、多くの地域の関係者が参加したこのプロセスは、共通の理解と方向性を持って地域の未来を考えるための良い方法として紹介されています。

>>参考:別府市における温泉・観光と地熱発電に関するシナリオプランニングの事例

(3)事例3:農村地など少人数の住民だけでの実施

近年、農村の外部環境が不確実かつ複雑化しています。これに対応するために、未来の可能性を複数想定して対策を考えるシナリオプランニングの必要性が増してきています。しかし、通常のシナリオプランニングワークショップは、高い精度を要求されるために、事前調査や専門家の召集などの手間がかかります。これは、人的リソースが不足している農村地域では難しいです。

そこで、専門家を召集せず、少人数の住民だけで実施できる新しいワークショップ手法を考案し、京都府A町で試みました。この試みの結果、次の効果が得られることが分かりました:

  1. 複数の未来を描くことで、より適切な備えを構築できる。
  2. 参加者の考え方や認識が新しくなる。
  3. 異なる関係者間のつながりが強化される。

ただし、今後の改善点として、さらに多くの住民を参加させる、議論がしやすいテーマの選定、情報整理の工夫、高齢者向けの時間配慮などが考えられます。

>>参考:農村地域におけるシナリオプランニングを応用したワークショップ

5.まとめ

シナリオプランニングは、未来の不確実性に対応するための戦略的なアプローチです。本記事では、シナリオプランニングの定義、目的、そして基本的な進行方法を解説しました。

成功のためのポイントとしては、多角的な視点を持つこと、業界全体を考慮に入れること、そして計画の定期的な見直しを行うことが挙げられます。具体的な事例を通して、シナリオプランニングがいかに実際の課題解決や未来像構築に役立つかを紹介しました。

未来は予測が難しいものですが、シナリオプランニングを活用することで、より明るく、そして安定した未来を築くための指針を得ることができます。

執筆者
Loglass編集部

ログラスの編集部です。ビジネス戦略、リーダーシップ、財務、イノベーションなど、ビジネスに関する面白い話題をお届けします。 最新トレンドをキャッチし、ビジネスのヒントやアイデアを提供して、成功への一歩をサポートします。