予実管理とは、予定(予算)と実績を比較し、その差異を管理することをいいます。予実管理が適切におこなえると組織の目標達成に向けた進捗を把握でき、また必要な場合には修正を行うための手段となるため、ビジネスの運営においてとても大切なプロセスです。
本記事では、予実管理をおこなう際の具体的な手順やツールの選び方、分析軸など、予実管理の基本を解説します。
予実管理とは、企業の経営目標達成に向けて、予算(計画)と実際の経済活動の結果(実績)を比較・分析し、管理するプロセスです。
このプロセスは経営の効果的な運営に不可欠であり、予算実績管理と呼ばれるケースもあります。
予実管理の目的は、組織が定めた経営目標に対する進捗の定期的な確認と、目標達成への促進にあります。予実管理の設定によって、組織は目標達成への道筋を見失うことなく計画に沿って進むことができます。さらに、予算に対する実績の達成度を定量的に分析することで、組織が直面している課題を明確にし、改善策を立てるのに役立ちます。
また、目標を上回る成果が得られた場合には成功要因を分析し、その知見を今後の戦略立案に活かすことが可能です。予実管理は組織の効率的な運営と戦略的な成長をサポートする重要な役割を担います。
では、予実管理と予算管理はどのように違うのでしょうか。
予算管理は、予算策定とその実施過程の監視を中心に行うプロセスです。ここでは、組織の財務計画を立て、その計画に沿って活動が進行しているかを追跡します。予算管理の主な目的は、財務リソースの効率的な割り当てと、コスト管理にあります。
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予算管理は、組織の財務計画の策定とその実施過程の監視に焦点を当てたプロセスで、効率的な資源配分とコスト管理を主な目的としています。このプロセスでは、計画段階とその実施における活動が中心となります。
一方、予実管理は予算策定だけでなく、実際に発生した結果(実績)との比較、およびその分析に重点を置いています。
これにより、予実管理は組織の進捗状況のチェック、定量的な分析に基づく課題の明確化、そして必要に応じて改善策を立案し、戦略の修正に至るまでの包括的なアプローチを提供します。
結果として、予実管理は単なる財務計画の遵守を超え、組織の戦略的成長と目標達成を促進する重要なツールとなります。
予実管理は、企業の経営改善につながる重要な手法です。予実管理の具体的な手順を紹介します。
予実管理の最初のステップは予算策定です。企業の事業目標に基づいて、部署・チーム単位で予算を作成し、目標を決めていきます。大切なのは「目標として妥当な数字設定であるか」をしっかり確認していくことです。
では、目標が適切であるかを判断するためにはどうしたらよいのでしょうか。以下のような観点から目標を立てるのがおすすめです。
適切な目標設定を行うためには、過去の数字を適切に把握しておくことも大切です。
次に決められた予算と比較し、実績を集計します。予算と実績の差がなぜ生じたのか、その原因分析を行います。分析をするためには、KPIを設定して、自社の強み・弱みを認識する必要があります。強みと弱みを認識するためには、SWOT分析などのフレームワークも活用してみましょう。
自社の強み・弱みがわかったら、それを反映させて次期の対策を行います。重要なのは、売上に貢献している部分(=強み)を、さらに伸ばす戦略を立てることです。弱い部分については、その問題点・課題に対応し、改善していきます。
ここでは、予実管理を成功させるポイントをご紹介します。
特に重要なのは次の4つです。
それぞれ簡単に解説します。
予実管理での予算設定は、適度に挑戦的でありながら達成可能でなければなりません。
高すぎる予算は従業員のモチベーションを下げる可能性がある一方、低すぎると簡単に達成できてしまい、組織のポテンシャルを引き出せません。
過去の実績や市場動向を考慮し、従業員が実現可能と感じ、かつ組織の成長を促すレベルで予算を設定することが重要です。
予実管理における成功の鍵は、短期間ごとに定期的なチェックを行い、予算と実績の乖離を素早く特定することです。
このアプローチにより、問題が小さなうちに対処し、大きな乖離や長期にわたる問題への発展を防ぐことができます。
迅速な分析と対策は、組織の目標達成をスムーズにし、予実管理の効果を最大限に引き出します。
予実管理においてPDCAサイクルを回すことで、予算設定の精度を向上させ、課題の迅速な解決に寄与します。
PDCAサイクルによって組織は継続的にプロセスを改善し、成果を最大化することが可能になります。
PDCAは予実管理を動的かつ柔軟に保ち、目標達成へと導きます。
予実管理におけるKPIの設定は、部門ごとの具体的な目標達成指標を明確にし、期待される行動や成果を具体化します。
これにより、各部門は自身の目標に対する進捗を明確に測定し、達成に向けて必要な調整を行うことができます。
KPIは組織の目標達成に向けた具体的な道筋を示し、進捗管理と戦略的な調整のための重要なツールとなります。
予実管理で失敗しないためにはいくつかの注意点もあります。
代表的なものが次の3つです。
それぞれチェックして、失敗しない予実管理を実現しましょう。
予算を組む際は、現実的かつ達成可能なレベルに設定することが重要です。
過度に野心的な予算設定は、実現不可能な目標となり、結果としてチームのモチベーションを損ねる恐れがあります。
逆に、低すぎる予算設定は組織のポテンシャルを制限し、成長の機会を逃すことになります。
したがって、過去のデータや市場状況を考慮し、挑戦的だが現実に基づいた予算計画を策定することが求められます。
予算目標達成は重要ですが、それに固執しすぎるのは避けるべきです。特に、短期的な成果に焦点を当てすぎると、社員の過度なストレスや不正行為を誘発するリスクがあります。
また、市場や経済環境は常に変動するため、予算設定もそれに応じて柔軟に見直す必要があります。
計画の柔軟性を保ち、状況に応じた適切な調整を行うことで、組織の長期的な成功を支えます。
効果的な予実管理のためには、適切なKPI(重要業績評価指標)と目標の設定が不可欠です。
KPIは進捗の追跡と評価を容易にし、目標に対する具体的なガイドラインを提供します。
目標は、現実的かつ測定可能で、かつ組織の大きな目標に寄与するものでなければなりません。
適切に設定されたKPIは、予実管理の効率を高め、組織全体の成果を最大化する助けとなります。
予実管理ツールにはさまざまなものが存在します。最も一般的なツールはExcelやGoogleスプレッドシートなどの表計算ソフトです。自由度が高く費用も大きくかからないため、大手から中小企業まで、多くの企業が使用しています。
一方、表計算ソフトは数字で管理することが基本であるため、グラフなど感覚的な分析を行うことが難しい……という問題があります。またデータ量が多いと表示が重くなってしまったり、ファイル数が多くなってしまい管理が難しくなることも。
ほかの予実管理ツールを使うことで予実の差異を視覚的に理解できるようになるほか、データが一元管理されるため管理工数を大幅に減らすことができます。
それでは、どのような観点でツールを選定すればいいのでしょうか。
UI/UXが良いなど、直感的で使いやすいツールを選ぶとよいでしょう。使用感が良いと作業をおこなうメンバーのストレスが減るうえ、ツールを導入する際も早めに定着させることができます。
必要な機能が全て揃っているか確認することが重要です。予算策定、実績の収集、分析と評価など、予実管理に必要な機能が含まれているかを確認しましょう。
例えば、分析に必要な切り口がいくつ登録できるのか、ダッシュボードは扱いやすいか、ファイルのインポート機能はついているのか……などで判断することができます。
ツールの導入は一般的に「イニシャル(導入)コスト」と「ランニング(運用)コスト」がかかります。自社の特性に合致したツールは人的コストを削減できることが多いものの、一定のコストがかかることに変わりはありません。
どの程度ツールに投資できるのか、またツールによってどの程度ほかのコストが削減できるのか……を考える必要があります。
問題が発生したときに迅速かつ適切なサポートが受けられるかどうかも重要なポイントです。特にクラウドサービスの場合はアップデートが入るたび、使用感が変わることもあります。また、システムの導入時にはさまざまな疑問点が生まれることがあります。
そんなとき、システムや業務のことをよく理解している担当者からのサポートがあると、ストレス無くツールを活用できるようになります。担当者とのコミュニケーションが取りやすいかどうかも視野に入れて選びましょう。
提供形態には「クラウドベース」「オンプレミス(自社運用)」などがあります。クラウドベースなら場所を問わずアクセスでき、メンテナンスが容易です。一方、オンプレミスのツールは、データのセキュリティとプライバシーをより細かく制御できます。
では実際に、予実管理をおこなう際の大きな流れを見ていきましょう。
予算(目標)を設定します。企業の事業目標に基づいて、部署・チーム単位で予算を作成し、目標を決めていきましょう。とはいえ、部署間でのコミュニケーション不足や目標設定の基準の不明確さから、予算の目標設定が困難になることがあります。
予算目標を適切におこなうには全社的な目標を明確にし、それらに基づいた予算目標を各部署で設定できるようにすることが大切です。目標設定の基準を全社で共有することで、一貫性のある目標を設定できます。
予算を設定したら、具体的な数値目標を立てていきます。
例えば利益目標が決まっている場合なら減価償却費・人件費など、使える経費を算出し、費用に関する予算も決めていくことができます。しかし、予想外の経費増や市場環境の変化などにより、予算が適切でなくなることも出てくるかもしれません。
予算策定では「自社がどのような状態にあるのか」など、現状の解像度を高く持ったうえで可能な限り詳細な予測ができると、予想外の経費増を最小限に抑えることが可能です。また市場環境の変化に対応するためには、定期的な予算見直しを行いましょう。
部署・チーム単位で決めた費用・予算を、企業全体の予算と合わせて「矛盾が出ていないか」再確認します。とはいえ部署間での予算の調整が難しい場合や、全体の予算と部署の予算が一致しない場合もあります。そんな時は優先順位を付けてみたり、予算のカットを検討することが必要かもしれません。また部署間で対話を試みたり、新たに資金調達をするという手もあります。
予実管理でデータを分析する際、予算と実績の差異(バリアンス)を見ていきます。
「なぜ予算と実績に差異が生まれたのか」その原因を特定し、またそれが一時的なものなのか、それとも継続的な問題が発生しているのかも考えていきます。分析結果をもとに経営戦略の修正や予算の再設定、業績改善を行っていきます。
ここからはどのような観点から分析していけばよいのかという、基本的な指標を紹介します。
売上高は企業の収益性を示す基本的な指標です。期間ごとの売上高を追跡することで、ビジネスのパフォーマンスを評価し、予算目標を設定します。ただし、売上高だけを見ていると利益率やコスト構造など、他の重要な要素を見落とす可能性があります。売上高だけではなく利益率や各種のコストも同時に追跡し、ビジネスの健全性を広い観点から評価していきましょう。
コストには直接コスト(原材料費や労働費など)と間接コスト(管理費や販売費など)があります。コストが適切に管理できていないと利益率が低下し、ビジネスの持続可能性に影響を及ぼす可能性があります。コストを定期的に見直し、無駄を削減し、効率化を図りましょう。
利益率は「売上高に対する利益の割合」であり、企業がどれだけ効率的に運営されているかを示す指標です。利益率が高いと健全に企業運営できていると思いがちですが、利益率の高さは必ずしもビジネスが健全であることを示しているわけではなく、高い利益率が維持できていない場合、また投資が適切に行われていない場合は成長の機会を逃していることもあります。利益率を確認する時は、業界の平均利益率や競合他社の利益率も一緒に比較してみましょう。
最後に、経営企画部が予実管理にどのように関わるべきか、そのポイントを解説します。
それぞれチェックしていきましょう。
経営企画部は、組織の長期的な戦略的目標と予算の整合性を確保する役割を担います。
企業の戦略に基づいて予算を策定し、各部門の予算が全体の戦略に沿っていることを確認する必要があります。
これには、戦略と財務の専門知識を融合させたアプローチが必要です。
経営企画部は、経営層とのコミュニケーションの橋渡し役として、予算計画の重要な側面を経営層に伝え、彼らの意思決定をサポートします。
また、経営層の視点を各部門に伝えることも重要で、これにより組織全体の方針と各部門の活動が一致するように努めます。
市場の変化や競合の動向など、外部環境の変化に敏感であることが経営企画部には求められます。
これにより、予実管理プロセスにおいて、環境の変化に基づく予算の見直しや戦略的な調整を行うことができます。
予実管理を行うときは「予算と実績のデータを正確に把握できているかどうか」に注意しておきましょう。不正確なデータは誤った分析結果をもたらすため、誤った意思決定を引き起こす可能性があります。また、予実管理は定期的にブラッシュアップし、最新の状態にしておくことも戦略立案の効果があります。
予実管理を成功させるには予算と実績を組織全体に周知し、メンバー全員が同じ目標意識を持ったうえで実行に移すことが大切です。ここまでできると、予実管理の効果を最大限に発揮することができます。